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氷解

先週の土曜日に久しぶりにスタジオにでかけた
相変わらず遅刻癖が治らなくて師匠を三十分以上待たせてしまった

ずっと猫の事で色んな迷いを抱えて懲りずに泣き腫らし 瞼がどら焼きみたいになっていたので薄い飴色のサングラスをかけて行く

猫の件は師匠は知っていたので ぽつぽつと私が話すと黙って聞いてくれた
レッスンの前に師匠のソロを聴かせてもらえないか と 遅刻した分際で御願いすると快諾してくれた



言語化出来ない程の圧倒的なプレイに只只息を呑むばかりと自然に私も体でリズムをとっていた
何というか 氷解だ



御礼を言い 目にはみえないけれど猫と一緒に今日は師匠のドラムを聴きに来たと正直に話す
生前 猫は師匠が所属しているグループの動画を黙ってじっと眺めて聴いていた

師匠が少し間をおいて もう一曲猫ちゃんの為に叩いていいかな と 驚愕の御言葉が出た
もの凄く嬉しかった

その曲も勿論アドリブだった 

繊細で希望に満ちあふれてしなやかにひそやかに奥深い音色を鮮やかに見せてくれた
終始穏やかでいながらも鋭敏を保つ師匠の横顔と奏
迷っていた事にそっと背中を押される 
頑固者の私に柔らかく力強く

自然に素直に決断を掴ませてくれた







スネアとタムの上を嬉しそうに元気に飛び渡ってゆく猫がぼんやり浮かんだ
最後の静かな一音を吸い込んだ後 ゆっくり ありがとう と 言って 猫はドラムから降りて新しい場所へ向かって行った

とても軽やかに そして迷わずに
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by anitya_ocean | 2010-03-15 13:47 | Comments(0)

停留所

可笑しな奴が来た と 某所に住む友人が伝えてきた
一緒に共同生活を始めた と 屈託なく言うので へえ としか返せない



身一つで その『可笑しな奴』は友人の地元の近所のバス停に何時間も居たので 声をかけてみたら特に理由は無く此処に来たのだという

危ない奴じゃないだろうね と 一般論で返したら そういうのは一山超えてるみたいだね との由



「最初は随分消耗していて飯も食ってない感じだったけど 特に金が無いってわけでもないんだよ 身なりもシンプルで良いし」
「幾つくらいの人?男?女?」
「男 俺より下かと思ったら全然上だった 向こうもこっち見て同じこと考えてたんだって」
「どういう展開で今に至るワケ?」
「何となく 全部なんとなくだよ 停留所のベンチで四方山話してたら日が暮れてきて 旅館なんてお金勿体ないからウチに来ればって言ったら急に黙っちゃって当然夜になるじゃん 寒いし腹減ってきたから とりあえず一泊して明日旅館まで送りますよって言ったら 別に何処にも宿泊するつもりはないんでとか妙なことをやっと言うから面倒臭くなって じゃあ飯だけ食べて行きませんかって」
「言ったの?あんたが」
「うん そしたら来たよ」
「何だろ その人 て言うか 何なんだ相変わらずあんたは」
「anityaに言われたくない」
「で?」
「単純に腹は減ってたんじゃないのかな 腹は何があってもどうしても減るでしょ いつか」
「うーん」
「適当にあり合わせのもの出したけど ビールと豆腐食ったら もう船漕ぎ出したから布団敷いてやったの」
「うーーん」
「朝になったから どうしますかって聞いたけど 何て言うの よくanityaがいう 暖簾に腕押し糠に釘二階から目薬な・・・」
「ははぁ」
「俺は仕事があるから旅館とか喫茶とか本屋の住所と電話番号メモして渡してろくろのトコ行ったよ」
「何も盗られなかった?」
「無いよそんなの で 昼飯に戻ったらまだ居てさ 食器洗ってくれてて縁側で煙草吸ってて どうも なんて会釈するから可笑しくて」
「可笑しいだけで済むかねえ」
「さあ」
「名前は?」
「聞いた 何処から来たのかも でも理由はあんまり分かんない 犯罪者とかじゃないよ」
「この寒いのにそこに来たってのも頑丈な話だねえ」
「脆さの限界に挑戦してんのかもよ」
「まあ・・・あまり引き込まれない様にね」
「うん」
「停留所かあ」
「?」
「いや バス もう随分乗ってないからね」
「ああ」
「停留所でバスが見えると嬉しくならない?」
「ん なるよ」
「席に座れたらホッとするよね」
「うん」
「動き出したら景色より先に運転手さん見たりしない?」
「anitya」
「うん」
「何かあったの」
「うん」
「何?」
「うん 喋るとちょっとアレになっちゃいそうだからもう今は止しとく」
「困ったな」
「知らない人には困ってないのに妙なこと言うね」
「んー・・・」
「もうちょいしたら言う 仕方の無い事だから日にち薬でいいのよ これは」
「ホント?」
「多分そういうふうにできてるんじゃないかなあ」
「こっちに遊びに来たら?」
「ヤダ」
「何で」
「まだヤダだからヤダ」
「あったかくなったら来れば?」
「わからんなあ」
「わからんかあ」
「なんか おなか痛いからもう電話きるよ」
「甘くないお萩作ってあげるから 来た時は ね」
「小豆いっぱいのがいい」
「うん」
「胡麻のも」
「うん」
「あと バスに乗る」
「え?」
「やっぱり一人じゃ ちょっとまだダメだから一緒に乗ってもらえんかな」
「どしたのよ」
「仕方ない バスに乗りたいもん」
「分かった」
「その知らない人さあ いつまで居るのかな」
「どうだろねえ」
「もし居ても乗る?私がそっちに行った時」
「乗るよ」
「それって三人で?」
「まだその人が居てもanityaが嫌なら断るよ」
「じゃあヤダ」
「うん」



友人がちょっと黙って ごめん と 言って来た
実を言うとね 今 ちょっと此処を離れられないみたいなんだ と 言って来た
そして

「バスに乗りたいなんて言われるの考えてなかったよ」

と 溜め息をついていた

「必ず一緒に乗るからおいでよね」

と 『ら』の 部分を強調した声音でまた黙り込んでいた










声を出さずに頷いて『可笑しな奴』が なんだかとても羨ましく思えた
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by anitya_ocean | 2010-03-11 22:56 | Comments(0)