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遮るものは

氷を頭に乗せても数分ともたない今年のこの季節 私はとある知人に手紙を書かなかった

だからといって何が重大になるわけではないけれど些細に帰るわけではないけれど
何処かで誰かが髪を切るのをするりと忘れているのだろうな と いうことは分かる



「散歩をした」
と 真夜中電話で誰かに伝えるとその相手は黙り込んだ 
あんぐり口でも開けているのだろう
「昼間じゃないよ 夜の散歩に出た 日が落ちないと到底無理でね もう」
「そうかあ・・・」
「公園に行ってブランコに乗って三半規管がおかしくなった」
「じゃ もう遊園地なんか行ったらすぐ担架だな」
「分かってたけど思い知るのとはまた格別の何かがあるね」
「少しずつ体を動かしてればまた何にでも乗れるんじゃない?」
「どうだろ・・・海賊船みたいだったんだよ ブランコ」
「まあ急に漕いだからでしょ これからは急を避ければいいよ」
「散歩は急に行ったんだがなあ」
「で すぐ戻って来たの?」
「うん おっかないのもあったし」
「今度はまた少し ほんの少し長く歩いてくればいい 真夜中より少し手前の時間帯にしなよ 少しずつが肝心だからね 多分君にはね」
「少しずつが一番良いのは分かるワ」
「そう?」
「あのねえ そういうの最近発見した」
「へえ」
「例えば化粧水つける時とかでもそうでさ」
「うん」
「値段が高くないもので全然いい でもコツがあんの」
「女は大変だなあ」
「大変だよ でも男のあんたは男の大変さに気付いてる?」
「勿論男も大変ですよ」
「でしょ」
「で 続き教えて」
「吃驚するくらいの・・・一回につきホントにこれだけでいいのかって位の微量を掌につけてね それを顔に三回にわけてゆっくり丁寧に染み込ませるとさ 呆れるくらい潤うんだよ ホントにホントに少しずつじゃなきゃダメなんだけども」
「手間ね 成る程ね」
「うん そう 手間」
「俺もそうだよ 化粧水じゃないけど」
「貯金?」
「はは さあね」
「ふ」
「何にしても大事を染み込ませるのは・・・何て言うのかなあ そういうのキライになっちゃ出来ないんじゃない?きっと絵もそうでしょ?色とかどう?」
「うん」
「描いてる?」
「絵はね 手紙は書いてない」
「手紙?」
「まあ・・・何でもない」
「手紙ねえ 書かなくなったなあ そういうのね」
「四弦どう?」
「うん 弾いてるよ なかなか聴きに来ないね」
「夏だからさ・・・」
「たまにはおいでよ」
「夏眠をよくしてるんだ」
「仮眠?」
「冬眠ならぬ夏眠だ」
「?」
「なつねむり」
「ああ『なつ』って『か』か」
「うん だから手紙もライヴも歯医者も散歩も色々」
「弾きに行ってあげようか」
「いい」
「だろうね 助かった」
「良かったね」
「でも歯医者には行きなよ」
「そう思う」
「手紙は書かなくていいから」
「そう?」
「事情は知らないけど 散歩に出た丈でも よしと思うの今 俺はね」
「もうナイフ踏んでる様に痛かったぞ 靴は大事だね」
「分かってるから そういうのは言うなよ」
「君は泣き虫だからな 男らしいよ」
「どうかな 比べるもんじゃないみたいなこと言ったくせにさあ」
「うん」
「俺も歯医者行くかな」
「そうなの?じゃあ一緒に行くか」
「歯医者こそ一人で行きなさいな」
「知ってるよ」
「手紙を書かなくていいんだからサ 気楽なほうでしょ」
「ふーむ」
「さて 寝る 歯磨いて風呂入って 俺寝るワ」
「うん」
「またね」
「ねえ 今年はどんな冬になるかね」
「まだ夏真っ盛りだよ」
「だから冬の話」
「じゃあ お互い治療が終わってるといいね」
「そうか それいいね」
「いいよ 最高ですよ」
「ではまたね」
「うん じゃ 明日 弾きに行くから」






そういうものなのかなあ 彼にとって日々というものは と 切れた電話を見つめて考える
助かった と 言ったのは去年でもあるまいし
距離に慣れているのだ 物事の
彼は泣く事が多かったのかもしれない
或いはその反対か



とにかく散歩に出掛けて行方をくらまそう と 思いながら電話を置いて私も歯磨きに洗面所へ行った






すると 遮るものはもう何もない と とある人が急に背後で歌い出した 

でも私は従わないんだ
残念でも何でもない
『何も』なんてあるわけないから



錯覚を好むのは生きていく為でもあるから邪険にはしないけど
それでも私は従わないから自然に留守を背にするんだ
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by anitya_ocean | 2010-08-22 21:05 | Comments(0)